日本産ワラジムシ類の飼育について

内陸の身近にいるワラジムシ類の飼育について記述しています。よって海岸及び海浜近くの海水飛沫が飛翔する様なところに生息している種類については対象外とします。

また、近年外国産のワラジムシやダンゴムシが輸入されていますが、ほとんどの種類で、植物防疫法の規制対象になるかどうかの判定を受けていない(未判定状態での輸入は出来ない)ため、販売・購入・飼育等はできませんので、もし外国産のワラジムシやダンゴムシを飼育したいという人は、必ず最寄りの植物防疫所で規制の有無等について照会してからにしてください。

概要

ワラジムシ目(等脚目)Isopodaは、9亜目に分類されますが、元来海産のグループであり、土壌動物として陸上で見られるものはそのうち、ワラジムシ亜目とハマダンゴムシ亜目(ワラジムシ亜目に含める意見も有力)です。成体の体長は2oから2pまでのものが多いです。体は楕円形のものが多く、体を丸くすることのできるものもかなり多いです。体は頭部、胸部、腹部、尾部からなります。頭部には2対の触角がありますが、ワラジムシ亜目およびハマダンゴムシ亜目では第1触角が著しく退化しているので、触角は第2触角だけが顕著で、一見、1対だけのように見えます。1対の複眼がありますが、各個眼は1〜700個からなり、まったく欠如しているものもあります。胸部は本来8節からなりますが、第1節は頭部と融合し、残りの7節が自由体節となります。胸脚も本来8対ありますが、第1胸脚は顎脚となって大顎、第1小顎、第2小顎とともに口器となっているので、残りの7対の胸脚が歩行用の脚になっています。雌は胸部腹面に覆卵葉からなる育房を形成し、そこに産卵します。受精卵はそこで孵化し、親と似るも歩脚が6対しかない幼虫(マンカ)で育房を去ります。雄は最終胸節腹面に生殖突起(陰茎)をもちます。

腹部は本来、6節からなりますが、最終節が尾節と融合して腹尾節を形成します。したがって5節が自由体節となります。腹肢は5対で、進んだグループでは白体(偽気管)を形成し呼吸器となっています。雄では第2腹肢内肢が交尾器となっていて、第1腹肢内肢が交尾補助器となっているものが多いです。尾肢は1対です。

わが国のワラジムシ相は、日本在来の種類に加え、世界共通種もしくは広域分布種と呼ばれているものが増加しています。また、生息環境とワラジムシ相は密接な関係がある場合も多く、環境の指標としても重要であると考えられます。

生息場所は海浜から内陸まで及び、市街地や砂漠に生息するものもあります。世界中で約1500種以上が知られていますが、現在わが国からは約140種余が知られています。しかし調査が進めば200〜300種類は生息するものと考えられます。まだ研究が始まったばかりであり、多くの科では今後研究が進むにつれて、多くの種類が記載され、また分類学的に大きな変更があるものと思われます。(以上 「日本産土壌動物 分類のための図解検索」より)




ワラジムシの入手について

ワラジムシを入手するのには大きく分けて2つの方法があります。一つは自然採集です。もう一つはショップなどから買い求めたり、飼育している人から分けてもらうという方法です。

自然採集のメリットは、色々な種類のワラジムシ達を採集できる可能性があるということです。私の場合、ワラジムシを探していて想定外の「クマワラジムシ」を見つけることができました。それに遠出でもしない限り近所での採集となりますのでタダです。デメリットとしては、ワラジムシたちはある程度集団を形成していることが多いので、コロニーを形成している特定の場所以外を探してもなかなか見つからないことが多いです。逆にうまくコロニーを見つけることができれば簡単に大量捕獲できます。

参考までに、よく言われるところの農薬等薬剤による汚染ですが、はっきり言って問題ないです。これは生体のエサとして大量に使用する場合に、少し気をつけたらどうでしょうと言う程度のことです。高濃度の農薬等薬剤汚染の影響を受けているのであれば、ワラジムシ自体が生きていないはずです。自然採集のワラジムシだけを給餌して爬虫類や両生類を飼育している人などまずいません。自然界では、サンショウウオなどはワラジムシをたくさん食べているそうですが、それで大量死したなど言うこと聞きません。

一方、ショップや飼育している人から買ったり譲ってもらったりする場合は、種類が限られています。これはメリットデメリットの両面があります。基本的にショップでは「ワラジムシ」、「ホソワラジムシ」、「シロワラジムシ」の3種類です。はっきり種類毎に売っているショップでは確実にその種類のワラジムシが手に入ることはメリットと考えて良いでしょう。両生類(特に有尾類)飼育者で自家繁殖させいてるようなマニアックな人から譲ってもらう場合には「ニホンヒメフナムシ」がいるかも知れません。(最近ではヒメフナムシを扱うショップもあるようです。)ひょっとすると珍しい種類がいるかも知れませんね。オークションなどでもエサとして出品されていることがありますが、出品者はエサとしてしか見ていないので種類の特定は困難です。参考画像が掲載されている場合もありますが、必ずしもその種類のワラジムシが届くとは限りません。私の場合、ワラジムシのつもりで落札したら、届いたものはヤマトサトワラジムシだったと言うことがありました。いずれにしてもエサとして扱われていることから種類等については期待できないでしょう。これについてはデメリットでしょうか。それから最大のデメリットは基本的に有料であることでしょう。



飼育設備について

通常入手可能なワラジムシはせいぜい15o程度(最大種でも20o)なので、100匹いるとしてもプラケ程度で十分です。それほど大きな容器は必要ないでしょう。私の個人的な感覚で言うと、容器の一辺が飼育する種類の最大体長の10倍を目安に考えると良いのではないかと思います。例えば最大体長20oのクマワラジムシなら20p×20p、7o程度の種類であれば10p×10p程度を目安とすればいいでしょう。もちろんエサとして増やす場合は、必要量に応じて大きさを決めてください。後で述べていますが、少ない匹数を広い容器で飼うことはおすすめしません。
容器には軽く湿らせた腐葉土を2〜3p(またはそれ以上)敷き詰め、地表面に平たい石や植木鉢の破片、ウッドチップ、枯葉、樹皮など隠れ場所となる物を置きます。ヤシガラ土だけの方が良いという人もいます。自然採集した腐葉土の場合、他の生物も混じる事が十分考えられます。ワラジムシに影響のあるもの(たとえばワラジムシを捕食してしまうクモなど)以外は、それほど気にする必要はないでしょう。それでも気になる人は、事前に腐葉土を電子レンジでチンしてください。
蓋はしないか、通気性のいいものを使用するようにしてください。ワラジムシは体の乾燥防止のため、風に対しては負の走性(風に当たらないように隠れる)がありますが、かといって乾燥防止のためと考えて通気の悪い蓋をしてしまうと、空気がよどんでワラジムシの活動も低下してしまいます。

私の飼育例は、こんな感じで十分です。これで100匹以上います。もちろん蓋はしていません。爬虫類や両生類のエサとして自家繁殖させる場合は、もっと大きな容器で飼育繁殖させていますが、ペットとして楽しだり、子供の夏休み自由課題などの観察程度でしたらこれくらいの規模がちょうどいいです。




食性について

自然界では、朽ち木や枯れ葉,植物の根,虫の死がいなどを食べています。飼育下でも基本的には朽ち木や枯れ葉,植物の根などに金魚の餌、煮干しなど若干の動物質を与えれば良いでしょう。ワラジムシも甲殻類なのでカルシウムが必要です。自然界では落ち葉に含まれるカルシウムで十分間に合っているようです。しかし、飼育下では意識してカルシウムの多い物を与えてやる方が成長に好結果がでやすいです。ニンジン、ワカメなどが好物のようです。ただし新鮮なものよりやや腐りかけた方がより好むようです。水分はお尻から給水するようです。人工飼料はカルシウムやビタミン類なども配合されているものも多いのでうまく使いましょう。ただ、湿気を含みやすいためすぐにカビが生えてしまいますので見栄えは悪いですが、ワラジムシたちには問題ありません。しかし、ダニが発生しやすいため、人工飼料など動物性のものが含まれているエサは、ダニ防止のためにも床材に直接置かずにエサ入れに入れて与えるようにしましょう。ワラジムシたちはそれほど大食漢でないので人工飼料は少しずつ与えてください。床材に良質な腐葉土や落ち葉類を入れておけば、ニンジンや人工飼料はそれほど食べないです。ニンジンや人工飼料がすぐなくなってしまうようであれば、床材の交換をした方がいいかもしれません。
参考として、ワラジムシ類も甲殻類と言うことでカルシウムが注目されますが、カルシウムは通常、枯葉や腐葉土からの摂取で間に合うはずです。それでもカトルボーン(cuttlebone)、卵の殻、貝殻、カルシウムパウダー等々色々な方法でワラジムシに与えようとします。気休め程度ではありますが、無いよりはマシかなと思います。特に両生類爬虫類のエサとして大量に飼育していればワラジムシ達のエサ不足も考えられるので、入れておいた方が良いでしょう。ワラジムシやクマワラジムシなど大型ワラジムシの場合は、塩土を入れておくと結構齧っているようです。これは単にカルシウムだけでなく、リンやその他のミネラルなど色々と混ぜてあるのでお薦めです。


行動について

ワラジムシは基本的に光に対して負の走性を示す、すなわち明るさを避ける行動をとると考えていいと思います。ですから夜行性なのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。昼間の日差しの強い時にも見かけることがあります。しかし、暗いときにエサを食べたり地表を歩いていることが多いのも事実です。ワラジムシは明暗の区別が出来て、湿度を感知出来ますが、色を見分けるようなことは出来ず、視力そのものはあまり良くないようです。ですからワラジムシの行動は視覚は明暗を感じる程度でほとんど使われず、第2触角のセンサーと、脚に存在する物理的センサーが重要な役目を果たしているようです。第2触角はかなり重要なセンサーなので採集時に傷つけてしまわないようにしなければなりません。
種類にもよるようですが、居場所やエサをめぐってちょっとした小競り合いをしたりします。ただし、かみついたり相手に痛手を負わせるようなことはありません。ワラジムシたちは湿度に敏感ですから、ケース内に霧吹きしたり床材などに水分補給したりすると、わらわらと姿を現すことがあります(ホソワラジムシに顕著)。ワラジムシに直接水がかかることは嫌うようです。ひどい場合にはおぼれて窒息死してしまうこともあるようです。ただし、ヒメフナムシは水中に入っても窒息することはないようです。


脱皮

オカダンゴムシを含むワラジムシ達も甲殻類ということで当然脱皮をします。カニ、エビ、ザリガニとは違い、ちょっと変わった脱皮をします。その脱皮とは体の前半分と後ろ半分に分けて行います。一般的には体の後ろ半分を脱皮し何日かしてから体の前半分を脱皮するという時間差と言うか日差をもって脱皮するのです。ワラジムシやダンゴムシを飼育した人にとってはごく普通に思いますが、カニ、エビ、ザリガニなどの場合、一度にすっぽり脱皮してしまうことからすると、ワラジムシ達の脱皮は非常に特殊な方法であると言えます。このページの最初の方にあるワラジムシの図で言うと、第4節と第5節の境目で前半分後ろ半分となります。生き物の体の構造から考えると、胸部と腹部で別々というのならわかりやすいのですが、胸部の途中でと言うのが非常に面白いところです。これには何か理由があるのでしょう。私なりに考えると、ワラジムシ達が陸上生活に適応したとはいえ、まだまだ乾燥には弱いことから、一度に全部脱皮すると脱皮直後の柔らかい体表から水分蒸発が進み、生命の危機を招くことから、半分ずつ脱皮することにしたのではないでしょうか。ワラジムシ達の場合、胸部に対して腹部はとても小さいので、ほぼ体の半分にあたる第4節と第5節の境で分けることにしたのではないかと考えます。何と合理的なことでしょう。



日常管理 温度・湿度・光、日常管理について

ワラジムシは乾燥に弱い生き物です。ワラジムシ飼育での失敗のほとんどは乾燥によるものです。しかし、乾燥に弱いからといって、湿度を高くし過ぎるのも良くありません。このあたりは経験によるところが大きいのですが、ほんのり湿度を含んでいる程度で十分です。1日1回表面に軽く霧吹きしてやり、床材が乾いてきたらそっと床材に直接水を補給します。あくまでも乾燥させない程度の保水に留めてください。保水による床材の一時的な過湿はそれほど問題はありませんが、ワラジムシに直接水がかかったりすると極端な場合、呼吸できずに死んでしまう場合もあります。

温度管理については、基本的に無加温で問題ありません。特に夏場はパネルヒーターなどで加温すると床材が乾燥しすぎるのであまり良くありません。しかしながら、冬期にはパネルヒーター等の保温も有効だと思います。冬期でも室内飼育であれば無加温でも良いのですが、寒い時期の保温には以下のようなメリットがあります。
@ 寒い時期でも活発に動き回るので、観察(眺める)のに都合がよい。
A 生体活動が鈍らないので、冬期でも繁殖する。
エサとして利用する人にとってAは重要かも知れません。
注意点としては、容器壁面に露が付き易くなるのでベビーなど小さな個体がいる場合は注意が必要です。当然のことながら乾燥しやすいので湿度管理には十分注意が必要です。少なくとも1日1回は温度と湿度をチェックすることをお薦めします。

照明は基本的に必要ありません。ワラジムシ目は湿度があり暗い場所を好みますが、日変化、年周期を感じ取るために直射日光の当たらない明るい窓際で、極端な温度変化のないところに置くのが良いでしょう。

フンは短い矩形のものをします。わざわざワラジムシのフンを掃除する人もいないと思いますが、フンには種類ごとに特定の集合フェロモンが含まれますので、そのままにしておきましょう。



繁殖について

ワラジムシはオスメスが分かれています。雌雄異体ということは、繁殖させるためにオスとメスを用意する必要があります。雌雄判別はワラジムシの腹側を見ます。そして腹節部分を見ると、オスにはとがった生殖器(陰茎)があります。メスにはありません。(用語についてはこのページの最初の方にあるワラジムシの各部名称を解説した図をご覧ください。)ダンゴムシ・ワラジムシガイドブック(http://ugawalab.miyakyo-u.ac.jp/f5/zhy/dango/03-2.htm)に写真入りで説明がありますのでそちらをご覧になるとわかりやすいでしょう。5月から8月頃がもっとも繁殖する時期のようですが、それ以外の時期でも繁殖はするようです。やはり、たくさんの匹数で飼うことが増殖の近道であることは間違いありません。必ずしもたくさんで飼い始められるとは限りませんが、そんな時でも10匹程度は確保したいものです。理由としては、10匹いればオスメス1ペア以上そろう確率が90%以上となりますし、飼育途中で死んでしまう個体も出てきますのでその担保としても10匹くらいは欲しいものです。




うまく飼育する秘訣

結論:過密飼育する。

ワラジムシはフンに含まれる集合フェロモンにより一箇所に集まる習性があります。ですから少ない数のワラジムシを大きな広い容器で飼うとなかなか殖えませんし成長も遅いことが多いようです。ある実験によると、「孵化した若虫を密度別に5ヵ月程飼育し、体長、休幅、体重を測定してみたのです。その結果、密度が高くなるにつれて、すなわち1匹より2匹、2匹より10匹という具合に、成長が促進する傾向が得られました。ワラジムシ類では、触角を通しての刺激が神経を介して脳に伝わり、成長に関わる活性物質の分泌を促していることが分かったのです。」という報告があります。要するにワラジムシ類を早くうまく増やすには過密飼育が重要なのです。過密飼育にはもう一つのメリットがあって、集団でいることにより乾燥から身を守っているというのです。集合フェロモンにより身を寄せ合う本来の目的は乾燥を防ぐことにあり、二次的効果として成長促進があるということです。ちなみに集合フェロモンで有名なゴキブリですが、ゴキブリは複数匹であれば数に関係なく成長を促進するのに対して、ワラジムシは数が多くなればなるほど成長が促進されるので出来るだけたくさんで飼育するのが望ましいです。匹数が少ない場合は、ワラジムシ同士がいつも触角で触れあえるくらいの出来るだけ小さな容器で飼育すると良いでしょう。ただし、成体の大きさを考慮して、小型種は小さめ、大型種は大きめのものを選ぶようにしてください。



種類ごとの留意点

私が飼育しているワラジムシ達は、クマワラジムシ、ホソワラジムシ、ヤマトサトワラジムシ、ニホンヒメフナムシの4種類です。肝心のワラジムシは近々入手予定です。

クマワラジムシはフナムシを除く日本に棲むワラジムシたちの中で最大種(20ミリ)なので、ある程度広さのある容器を使用することをおすすめします。多湿はあまり好まないようですが、乾燥させすぎないように気をつけましょう。広さのある容器であれば湿った部分と乾いた部分を用意しておけば問題ないでしょう。暖かい場所を好みます。

フトワラジムシは特に注意する点はありません。普通に管理していればどんどん殖えてくれるはずです。あえて何か書くとすれば、乾燥に注意ということでしょう。まだ大丈夫だろうと手を抜いているとある日全滅なんてことになります。暖かい場所を好みます。

ホソワラジムシは特に注意する点はありません。普通に管理していればどんどん殖えてくれるはずです。あえて何か書くとすれば、乾燥に注意ということでしょう。まだ大丈夫だろうと手を抜いているとある日全滅なんてことになります。

ヤマトサトワラジムシはやや乾燥気味な環境が好きなようです。床材の表面は乾いているけれど、その下は湿っているくらいが良さそうです。日本在来種は蒸れには弱いようで、蓋をすると死んでしまう個体が続出します。飼育密度は外国産ワラジムシ(クマ、フト、ホソ)に比べて低めにしておく方が良さそうです。かなり繊細なようですから、飼育には十分留意しましょう。床材に潜りますが、深く潜ることはありません。

ニホンヒメフナムシは、多湿状態が好みです。乾燥にもある程度耐えますが、しっとり湿っている状態を保つことが飼育のコツのようです。多産のようで、状態さえ良ければどんどん殖えます。湿潤な生息環境から、サンショウウオや小型のカエルなどエサとして使用されることもあるようです。


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