アシブトメミズムシのすべてかな〜?
(「すべて」と断言はおこがましくてよう言わん!)


◎ 分類学上の位置

  (真核生物)
  動物界
  後生動物亜界
  節足動物門
  大顎(甲殻動物)亜門
  昆虫綱
  有翅昆虫亜綱
  カメムシ(半翅)目
  カメムシ(異翅)亜目
  メミズムシ上科
  アシブトメミズムシ科

◎ 一般的(世界的?)な説明

(出典 完璧版昆虫の写真図鑑: オールカラー世界の昆虫、クモ、その他の虫300科 著者: マクガヴァン,G.C.(ジョージ・C) 89ページ)



◎ 日本のアシブトメミズムシについて

日本のアシブトメミズムシは1属1種


学名 Nerthra macrothorax (Montrouzier, 1855)


体長 1p弱


特徴

メスの方が大きく、オスはメスよりも1周り程小さい。体型は盾形で広く、多くは植物の種子を擬態したようなでこぼこの多い外見をしており、頭部は側庇のようなものが張り出しており胴体とほぼ同じ幅である。


少し飛び出た大きめでやや離れた複眼をもっている。体色は黒褐色から茶褐色の保護色で、泥、砂、砂利の上にいると見分けがつきにくい。


前脚はタガメのように太く鎌状になっている。このことから「アシブト」の名が付く。


後脚は他の脚と比較すると長く、仰向けになってしまった時などは起き上がる時に器用に使われる(その様子はこちら)。

動きは特徴的でカクッカクッと小刻みに動いたり、ちょこまかと動く(動画はココ)。外敵に見つからないための動きと考えられる。

成虫では翅を持っているが、前翅左右が融合し、後翅も退化しており飛翔することが出来きない。


口器吻部はとがっているが、それほど長くない。



生活史

生息地では冬期もある程度の気温のため年中活動しているようである。繁殖についても同様だと考えられるが、春から夏にかけてがもっとも盛んと思われる。湿った砂、土などにバラバラに産卵される。卵は薄黄色の1〜2ミリ程度の楕円形で、成長に伴い目になる部分が赤く色づくが、孵化するまで卵全体の色は変化しない。孵化までに20程度の日数を要する。


不完全変態昆虫なので、幼体は成虫とほぼ同じ姿をしている。孵化直後は2.5ミリほどで、幼虫の視力はよさそうである。


食餌は成虫・幼虫ともにハマダンゴムシやタマワラジムシ、その他小さなムシなどを鎌状の前脚で捕獲し、針状の口吻を突き刺して消化液を送り込み、消化液で溶けた液状のものを吸う。ある程度砂にも潜る。



分布/生息場所

九州南部以南に棲息している。海水が直接来ない海浜で落ち葉や流木、石の下等湿ったところにいるが、水中では呼吸が出来ない。海岸から離れた内陸部でも見かけることがあるらしいので、ある程度乾燥にも耐えられるものと思われます。餌のダンゴムシやワラジムシが湿ったところにいるのでアシブトメミズムシも湿ったところを生息場所としているのかもしれません(科学的根拠は今のところありません)。


その他の情報

日本のウィキペディアの水生カメムシ類についての説明の中で、「湿地性のもので、九州以南の海岸に産し、昼間は砂浜の草の間などに隠れている。夜間にゆっくりと動き、ダンゴムシなどを捕食。」とあります。
某論文には、小笠原では本来樹上性であるグリーンアノールによる地表性昆虫のアシブトメミズムシの捕食が確認されている。地面まで降りてきて餌を探さなければならないほど、食い尽くしによる餌の枯渇が原因とか・・・(出典はここの32ページの上から6行目)


「昆虫専門店ランプリマ」のホームページによる説明

成虫、幼虫ともに肉食で、小さな昆虫を捕食します。海岸近くに生息しており大きさは1cm程度。おもに夜、活動します。タガメに似ていますが、水の中に入れると溺れてしまいます。この類の昆虫と比べると、とても寿命が長く、2〜3年以上生きます。出荷時にはエサであるダンゴムシも付けて出荷致します。
発生時期:年間通じて発生・越冬


◎アシブトメミズムシの寿命 (宮本正一)(出典はこちら

昨年(昭和25年)5月29日トカラ列島宝島で採集したアシブトメミズムシPeltoptelus macrothorax Montrouzier(Gelastocoridae)の雄を飼育した結果、普通の昆虫よりも遙かに長い寿命をもっていることが判った。現在、既に1年1ヶ月を経過するがまだ生存を続けている。一般に成虫態で越冬する昆虫の寿命は長いものであるが、1年間生き長らえるものは稀である。我国産の半翅類のなかでアシブトメミズムシに匹敵する寿命をもっているものはナベブタムシAphelochirus位のものであろう。ナベブタムシの中には冬期を2回も過ごすものがある。
アシブトメミズムシの自然状態での獲物は不明であるが、昨年はユスリカ幼虫、ウンカ、ヨコバイ、ユスリカ成虫、カゲロウの亜成虫及び成虫を餌とし、本年はユスリカ幼虫だけを与えている。11月から4月迄の6ヶ月間は摂食しなかった。(昭和29年6月)


ここからが、メインとなるアシブトメミズムシの飼育繁殖についてです。

容器

プラケでも、タッパーウエアでもガラス瓶でもかまいません。特別なものは必要ないです。深さもそれほど必要としません。飼育する匹数で大きさを選べば問題ないでしょう。個体の大きさはせいぜい1センチ程度なので、10匹飼育しても200平方センチ程度(一辺が14センチ程度)の底面積があれば問題なく飼育できるでしょう。もちろん大きい方がいいですが、あまり広いと餌を捕食するのに苦労するでしょう。翅がありますが飛ぶことは出ません。しかし、濡れた体で容器壁面に張り付いて登ることもあります。その他、湿度保持、上からの落下物などの防護のためにも蓋は必要です。



床材

砂。粗目から細目まで何でも使えます。砂利や土でも可能でしょうが、メンテナンスのしやすさから中目くらいの砂がいいと思います。もちろん湿らせておきます。表面は少し乾いていても大丈夫です。参考までに私が使用している砂です。ボトムサンドをメインに使用しています。ホームセンターなどで簡単に入手できるものです。



アクセサリー

隠れる場所を提供するために、水苔や落ち葉、貝殻等適当に入れて下さい。餌の項で触れますが、オカダンゴムシ・ワラジムシを餌とするので、それらの隠れ家として水苔、エサの餌にもなる落ち葉は是非入れておきたいアイテムです。それ以外は飼育者の趣味で適当に入れて下さい。



保温等

南国育ちの昆虫なので、夏期の冷房については不要です。しかし本州以北での冬期の過ごし方については考える必要があります。結論から言えば、室内飼育で最低室内温度が10℃を下回らないようであれば加温する必要はないと思います。少なくとも私の所(関西地方)では室内無加温でも問題なく冬を越えられています。




前述の「アシブトメミズムシの寿命」という論文ではユスリカの幼虫だけで飼育していたようですが、生きた赤虫を常時用意できる人はそれほどいないでしょうし、キープするのも大変です。そこで、ワラジムシ類を餌とします。生息地でもタマワラジムシなどを捕食しているそうなので、赤虫よりもいいと思います。私も赤虫を与えてみましたが、嗜好性は非常に悪いですし、すぐに死んで腐敗する(うまくすれば数日間は生きている)のでやめました。

結論から言うとオカダンゴムシ(以下「ダンゴムシ」という。)がもっとも良いと言うか向いているようです。

飼育当初はワラジムシを与えていました。ダンゴムシは驚くと体を丸めてしまい、外殻もワラジムシに比べてかなり堅いので、柔らかいワラジムシの方がいいだろうと考えていました。しかし、アシブトメミズムシはワラジムシの背中さえも口器で刺すことができないのか、柔らかい腹側から口器を差し込みます(餌の項の2枚目の写真参照)。ダンゴムシもお腹側はワラジムシ同様柔らかいので、背中側に堅い外殻があっても問題ないはずです。あとは丸まってしまうことが捕食にどう影響するかですが、一瞬のことなので丸まってしまうまでに口器を差し込まれてしまうのでしょう。自分(ダンゴムシ)と同じくらいの小さなムシがまさか襲ってくるとは夢にも思っていないで油断しているのではないかと考えます。それから、ワラジムシとダンゴムシを比較した時に、ダンゴムシの方が移動速度が遅いことも捕食に向いていると考えられます。ワラジムシも普段はゆったりした歩みですが、堅い外殻を持っていない分、外敵に襲われたときに不利なため、その逃げ足はダンゴムシと比較すると、かなりの速度になります。また、ダンゴムシは都市部でも土のあるところだと生息しており、ワラジムシよりも簡単に入手することができることも利点です。都市部だと残存農薬の心配も逆に少なかったりするのもメリットです。もちろん、ネットショップで売られているものを購入してもかまいません。
以上のことから、私が考える餌の順位としては、ダンゴムシ > ワラジムシ > その他の生き餌 ということになります。もちろんワラジムシやその他の生き餌でも問題ないと思いますが、キープのしやすさを考えるとダンゴムシに軍配が上がります。もちろんワラジムシでも全然問題ありません。


ダンゴムシ・ワラジムシを餌として使用する時は種類を選びませんが、クマワラジムシのような大型種は捕食できないので避けた方が良さそうです。ダンゴムシ・ワラジムシいずれの場合もアシブトメミズムシと同じくらいの大きさかそれ以下のものが無難です。捕食されたダンゴムシ・ワラジムシは、おなかを上にして(仰向けで)死んでいますので、見つけ次第捨てるようにします。甲殻類なので放置したままだと結構臭くなります。ちなみに、餌の逆襲はあるのかというと、無いと考えて良さそうです。もちろん死んでしまったアシブトメミズムシだと食べられてしまうこともあると思います。



孵化直後の幼体は体長2.5ミリほどと小さいので、ダンゴムシ・ワラジムシの幼体や出来る限り小さいサイズのものを与えるようにします。
給餌量については様子を見ながらということになりますが、1匹のアシブトメミズムシ成虫で週に1匹か2匹程度で十分だと思います。(あくまでも個人的な意見なので、これにより、いかなる損害が生じても、当方としては一切の責任は負いかねますのであしからずご了承ください。)


日常管理

餌の項でも書きましたが、ワラジムシの死骸はすぐに臭くなりますので毎日チェックして取り除きましょう。
湿ったところに棲息していることから時々霧吹きして床材に水分補給します。極端に乾燥していなければ死なないと思いますが、日々砂の湿り具合もチェックしましょう。幼体時期はやや多湿の方が良さそうです。具体的には床材の砂の表面にやや水が浮く程度に水を含ませておくのが良さそうです。
成体の場合は特に春から秋にかけて産卵することが多いので、砂の湿り具合チェックと同時に卵についてもチェックするのがいいでしょう。そのまま放置しておいても問題なく孵化するでしょうが、幼体はやや多湿の方が状態がいいので卵を回収して別容器で管理するのをおすすめします。
卵はティッシュペーパーやキッチンペーパーをしめらせたものの上に置きます。容器は保湿のことを考えると小さめの蓋のできるビンが良いでしょう。蓋には何カ所か小さな穴を開けておきましょう。こまめに霧吹きなどしておくと20日ほどで孵化するでしょう。



フンは黒っぽい液状のものを出すようで、ときどき容器の壁面などについていることがあります。汚れがひどくなったら拭いてください。



繁殖

飼育している限り繁殖を狙うのは当然です。実のところ、繁殖はそれほど難しくありません。実に簡単です。ペアさえいれば勝手に交尾して勝手に卵を産んでしまいます。


卵については生活史の中で書いていますが、ばらまき型産卵のようで、気がつくとあちこちに卵を見つけることが出来ます。慣れないと見つけにくいかもしれません。


そのまま放置していても問題なく孵化します。孵化までには20日ほどかかり、2.5ミリ程の幼体が生まれます。

知らないうちに殖えていたというのもいいですが、積極的に孵化させ、幼体を育てるのもおもしろいと思います。幼体にはかなり小さいワラジムシなどが必要ですが、ワラジムシを繁殖させている人なら、そう難しいことではないでしょう。トビムシやショウジョウバエの幼虫なども使えると思います。


脱皮

アシブトメミズムシも例に漏れず脱皮をするのですが、脱皮殻かどうか非常に見分けがつきません。というのは脱皮は胸部背面、いわゆる背中が割れてそこから脱皮するのですが、一般的な昆虫の場合、脱皮口が若干開いていて、ここらか脱皮したのだとはっきり判るのですが、アシブトメミズムシは全く判りません。死んでしまったと勘違いするかもしれません。



病気

アシブトメミズムシの病気として、体にカビが発生して死に至るというものがあります。



参考までにカメムシの文献をアップしておきます。



謝辞


貴重なアシブトメミズムシを譲っていただいたブリッキーヌさんに感謝いたします。



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